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「 」 is not here.
私の、進むべき道。
そう言われてはじめて、まともに自分の将来を考えてみた。18歳になった私の前に、担任の先生からみんなに配られた、一枚の紙きれ。
「来週末までに、ご家族のかたからハンコをついてもらってきてくださいね」
進路、すなわち将来決定であり人生設計だ。私の未来を決める、大事なもの。
考えてみれば、私の将来において、やりたいこととはなんでしょう。
幼いころから弓道に打ち込んできたとはいえ、就職や進学においてとりわけ武器になるような実績は持ち合わせていなかった。しかし、まだ部長であることに加えて、大会もまだ残っている。では、私、水野翠が本当に将来目指していること、やりたいこととはいったい何だろう?
頭の中をかき回しても、なかなか答えは見つからない。気づけば、この高校に入った理由も、はっきりしない。お父様に言われて入ってみたというのもあるが、当時の私も高校に入れば何かが見えてくるのかも、と気楽に考えていたんだったかしら、と記憶の糸をたどっていく。そして私は一つの疑問にたどり着く。
私が本当に進みたい道とは、なんなのだろう。
配られた進路希望調査の書類は、授業時間内どころか、終業のチャイムが鳴り昼休憩の時間まで、私の思考回路をぐるぐると回させた。
「翠、もうお昼だよ? こういうときはちゃんと休まないと」
同じ弓道部の仲間が声をかけてくれて、ようやく時間が過ぎていたことにも気づくほどに、真剣に悩んでいたことが理解できた。
「でも意外だよね、翠はそういうの悩まないでさっと書いてそうなのにね」
意外、と言われてしまった。確かに自分でも違和感がある。むしろ、自分が今までそういうったことに対して気を向けていなかったことにも、正直、己を恥じてしまう。
「そうそう、今度の日曜日はいつもの神社で部活だー、って顧問ちゃん言ってたよー」
彼女はそういって手に持っていたサンドイッチをほおばっていく。
大会もじわじわと迫ってきている。でも今は、空腹を満たさないと。
その日の夕方。普段より矢が定まらない。昨日とはまるで違う感覚だ。掃除、瞑想、そして昨日と同じ流れで足踏みから残心まで……。普段ならばこういう日もある、明日また精進しよう、と前向きになれるのだが、今日は違う。明らかに、矢が定まっていない原因に心当たりがあるのだ。
帰宅して、改めて私のやりたかったことを、探してみる。中学の時の卒業文集を開いて、過去の自分を眺めることにした。そうすればいくら高校で見つけようと思っていたものでも、何か方向性を示すものやヒントになるものが転がっているかもしれない、と思ったものの、手掛かりになるようなものはなかった。
それはそうだろう。今の私がこうなのであれば、当時の私もまた、同じ状態だったはずである。よくもまぁ、こんな状態で高校を過ごしてきたものだ、と自分を恨めしく思う。まぁでも、答えを出すのにはまだ一週間もあるのだし、結論を急ぐものでもないでしょう。と自分を納得させた。
それでも、この悩みは私についてまわった。この日を境に私はみるみる調子を崩していった。矢は真っ直ぐ飛ばなくなり、自分でも苛立ちが日に日に強くなっていくのを感じた。
そんな私を後輩や同学年の仲間は励ましてくれたが、素直に受け取ることができなかった。大会はもうカレンダーで視認できる日数だ。その中で試合に出れるのは団体戦でも3人、個人戦でも厳しい中というのに、今のままではメンバー入りなど考えられないだろう。そしていまだに調子は戻らないまま、神社での練習の日を迎えた。
普段とは違う練習環境、今日こそは心機一転、と思ったものの、一度揺らいだ自分の心は、矢の行き先に嘘をつくことなく現れた。自分で決められない進路、自分で見つけられないやりたいこと。自分で出すべき未来への答えは、もがいても、あがいても、考えても、出てくるものではなかった。また矢は的を外れる。的中しても中心ではなく、少し離れたところ。幼少期からただひたすらに打ち込んだ弓道に、これまでの自分を否定されるような気分だ。いったい、私はどうすればよいのだろうか……。
そんな迷っているときに、ふと訪れた私の転機。ちらと視界に映った、この場には似合わない、そんな人。他校の弓道部員や、他の神社への来訪者はなんとなくわかるのだが、なぜか、私には癪に障った。今の今まで調子が上がってこないこともあったが、なぜこんなところにというぐらい些細な事に苛立ちを覚えるくらいに、自分の心の乱れに、うんざりしていた。
このままでは良くなるわけがない。一度離れよう。そんな私を気遣ってか、後輩が声をかけてくる。
「そんなに落ち込まないでください、翠先輩。先輩の執り弓、今日もすごく綺麗でした」
「そうですよ、先輩。他校の生徒も見に来てたじゃないですか。当たらないのは、そう、
きっとたまたまで……」
たまたま、ね。私はたまたまがこんなに続いたら、お笑い草よねと心の中で自嘲した。
今はそのフォローすらも、皮肉にしか聞こえなかったのだ。
「ええ、そうね。ありがとう、でも……少し、一人にしてくれるかしら」
そう言って、弓道場を離れた。自分に腹が立って仕方がない。自分の道が定まらないこと、自分の道が見えないこと、これまで真摯に向き合ってきた弓道にも。己の未熟さを痛感させられる。
その場を後にした私の前に、私の感情を乱した人物が現れた。
その頃の私は、この先に答えがあることを知らなかった。気づけば私はあの忌々しい、私を散々引っ掻き回した書類の第一希望に、「アイドル」と書くことになることすらも。
「……それで、あなたは? さっきから……いえ、弓道場にいた時から、私を見ていましたよね。……何者ですか?」
了
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