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 何も変わらない。歯車の人生は嫌だと思っても、結局は逆らえない。
 あそこにいる電話片手に歩いてる男性も、ベビーカーを押してる女性もだ。
 セカイの歯車という役割は、誰も逃れることは出来ない。それが永久不滅のセカイの理さ。
 
 そのような事を思いながら、ボクは鐘の鳴る学校を出る。
 何時もと変わらない風景。しかし少しづつ変わる日常風景。あそこにあった車屋は今はパチンコ屋だ。
 恐らく僕もセカイの歯車になっていくのだろう。いつかは結婚し、子供を産む。セカイの、ヒトの進化の歯車に。
 いや、むしろもうなっているのだろう。どこにでもいて、ちょっと変で、曲がってる学生という歯車の一つとして。
 
 夕焼けも深く、逢魔が時とか言うのだろうか。ボクはこの時間が好きだ。何故なら魔に逢う時。
 つまりは幻想の世界の門が開いているかもしれない時間。九割の諦めと一割の期待の時間だ。
 もし、本当に魔がいるならばどれだけ刺激的なセカイになるのだろうか。薄っすらと期待しているボクがいる。
 科学的に見れば一笑されるが、存在証明はどこにもないが存在否定の証明もどこにもない。
 そんな曖昧なモノだからこそ、ボクは魅かれているのだろう。そして、同じ想いのヒトも多々いる事だろう。
 けれどもいくら期待しても現れることはなく、出るとしたら変質者だろう。
 
 魔に逢う訳でもなく家に着く。制服を脱ぎ、室内着に着替える。そしてエクステを付けて横になる。
 家では、学校外では付けるようにしたこのエクステも最初は刺激を求めたからだ。今では習慣になっている。
 せめてもの、校則やら常識に対する反抗と思っていたが、親には逆に肯定されてしまった。
 曰く「女の子なんだから」との事だ。ボクの口調も直させるつもりはないらしく、マナーさえ弁えてくれれば別にいいそうだ。
 どうやらボクは親には恵まれたらしい。
 
 夜も少し深くなってきた頃、ボクの好きなラジオが始まる。とある有名芸能人が隔週でやってる番組だ。
 売れてない頃からしていた番組だが、有名になってもラジオという関係上あまり有名ではないらしいがそんな事は関係ない。
 今回のテーマは「アイドル」についてだった。
「僕だって、元々は田舎者だったんですよ。そしたらドラマの撮影で地元が使われててですね、野次馬しにいったんです」
「そこで、スカウトされたんでしたっけ?」
「そうだよ、まぁスカウトというか僕がこっちの世界に興味を持ったってだけだけど」
「成程、確かに今のアイドル業界はこんな些細な出来事で目指すってのも少ないないからねぇ」
「では、ここで僕が今いいなって思ったアイドルの子の曲を。神崎蘭子で~・・・」
 
 ラジオが終わり、ボクは思う。確かに「アイドル」という世界は刺激が多そうだ。しかし。
「ボクはシンデレラではなくて、歯車の一つだ。舞踏会への招待状も無く、開催場所も知らない歯車さ」
 そう小さく口にして、電気を消して、エクステを取り、ベットに入る。
 明日も変わらない。ただただ回り続ける歯車の人生を送るために。
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